2005年1月13日未明。北海道石狩市の工業地帯で、一台のショベルローダーが盗まれた。
その重機は、約4キロ離れたスーパーへ向かい、ATMが設置された区画を破壊した。警察が到着すると、ショベルローダーはそのまま逃走。真冬の石狩を舞台に、巨大な重機とパトカーの追跡が始まった。
しかし、当時の報道によれば現場は吹雪。犯人は急停止や後退を繰り返し、バケットから雪をまき散らすなどして追跡を妨害した。警察は、逃げる重機を見失った。
その後、ショベルローダーは乗り捨てられた状態で発見される。そして午前5時52分ごろ。その重機を所有していた砂利運搬会社の事務所で、従業員の新田猛さん(当時56歳)が殺害されているのが発見された。
北海道警が現在使用している事件名は、「石狩市新港における会社員強盗殺人事件」。事件から21年以上が経過した2026年9月現在も、北海道警は公式サイトで情報提供を求め続けている。
2005年1月13日午前5時52分
北海道警によると、新田猛さんが発見されたのは2005年1月13日午前5時52分ごろ。場所は、石狩市新港中央2丁目813番地2にあった砂利運搬会社、有限会社丸井今井工業石狩営業所の事務所内だった。
第一発見者は、出勤してきた同僚(当時36歳)だった。新田さんは事務室の床で血を流し、横向きにうずくまった状態で倒れているのが見つかった。頭部には、複数箇所にわたって鈍器で殴られたような跡があった。
新田さんは会社の現場責任者で、会社周辺の除雪作業を行うため、午前3時から4時ごろの間に出社したとみられている。事務所内にはショベルローダーの鍵が保管されており、警察は犯人が鍵を奪って重機を持ち出したとみていた。
北海道警は札幌方面北警察署に捜査本部を設置した。だが、この事件を理解するには、新田さんが発見される約2時間前まで時間を戻す必要がある。
午前4時ごろ、スーパーを襲ったショベルローダー
新田さんが発見される前の午前4時ごろ。石狩市内のスーパーで、ショベルローダーを使ってATMを狙う窃盗未遂事件が発生した。
そして警察の捜査によって、このショベルローダーが、新田さんの勤務先から盗まれたものであることが判明した。
つまり、会社から重機が盗まれる。その重機でATMが襲われる。そして重機を所有する会社では従業員が殺害されていた。この二つの出来事は、一つの事件として結び付いた。
重機でATMコーナーを破壊
Responseが事件当時に報じた内容によれば、午前4時10分ごろ、石狩市樽川付近のショッピングセンターにあるATMで異常が発生し、警備会社から通報が入った。
最初に駆け付けたのは、ミニパトカー3台、警察官6人だった。現場に到着すると、大型ショベルローダーがATMコーナーの壁を破壊していた。しかし警察車両が近づくと、重機は逃走を開始した。
ATMから現金を奪うことには失敗しており、北海道警の現在の公式資料でもこの事件を窃盗未遂としている。
全長9メートル、重量21トンという数十トン級の重機を使って建物そのものを破壊し、ATMへ到達しようとする。通常の窃盗事件とは大きく異なる犯行だった。
パトカーと大型重機の追跡
警察は逃走するショベルローダーを追跡した。Responseによれば、その距離は約4キロ。
犯人はただ重機を走らせて逃げたわけではなかった。追跡中、突然バックする、急な動きをする、ショベルのバケットに入れた雪を周囲へまき散らすなど、警察車両の追跡を妨げる行動を取っていたと報じられている。
巨大な重機を自在に動かしながら逃げる人物。この行動から、犯人が重機の操作にどの程度習熟していたのかという疑問も生まれる。ただし北海道警の現在の公式ページでは、犯人の職業や運転経験については公表していない。「重機関係者だった」などと断定する根拠はない。
吹雪の中で姿を消した
さらに追跡を困難にしたのが、当時の天候だった。
Responseによれば、途中から追跡に加わった別のパトカーも、吹雪のためショベルローダーを見失った。
真冬の北海道。まだ夜も明けきらない時間帯。視界を遮る雪の中で、逃走する大型重機を警察は見失った。
その後、ショベルローダーは石狩市新港中央2丁目付近で乗り捨てられた状態で発見されたと報じられている。犯人自身は、そこにはいなかった。
そして会社で新田さんが発見された
重機が盗まれた会社では、その後、新田猛さんが殺害されているのが発見された。
北海道警の現在の公式資料は、殺害方法の詳細までは記載していない。一方、当時のResponseは、新田さんが頭部を複数回殴打されていたと報じている。
警察は、新田さんの殺害とショベルローダーの強奪、そしてATMを狙った犯行を一連の事件として捜査した。北海道警が現在も事件名を「会社員強盗殺人事件」としていることからも、新田さんの殺害と重機の奪取が事件の中心にあることが分かる。
犯人は最初から重機を狙っていたのか
ここで大きな疑問が残る。犯人はなぜ、この会社のショベルローダーを選んだのか。
たまたま重機を発見したのか、あらかじめ会社にショベルローダーがあることを知っていたのか、ATMを破壊するため、最初から重機を調達する計画だったのか。
現在の北海道警公式資料では、犯行計画の詳細は明らかにされていない。そのため、会社を事前に下見していた、内部事情を知る人物だった、などの説を事実として扱うことはできない。
確認できるのは、新田さんの勤務先からショベルローダーが盗まれ、その重機がATM窃盗未遂事件に使用されたという事実までである。事務所が施錠されていなかったことから、犯人はもともと重機の鍵を盗む目的で侵入し、そこへ早朝出勤してきた新田さんと鉢合わせた可能性を指摘する見方もあるが、これも現在の公式資料で確定した経緯として示されているわけではない。
パトカーのタイヤは切られていた
事件後、さらに不可解な事実が判明した。
Responseが2005年1月28日に報じたところによると、ATMが襲われたショッピングセンターに近い交番に配置されていたパトカーのタイヤが、刃物のようなもので切り裂かれていた。この損傷が原因で、追跡中にパトカーは走行不能になったという。
もし犯人が追跡を予測し、事前に警察車両を使えなくしようとしたのであれば、非常に計画的な行動になる。
しかし、ここにも注意が必要だ。同じ報道によると、交番の隣にある金融機関の駐車場でも一般車両2台のタイヤが同様に損傷していた。そのため警察は、犯人による事前の追跡妨害と、事件とは関係のない偶発的な器物損壊の両方を視野に入れて捜査していた。
つまり、パトカーのタイヤ損傷がATM襲撃犯によるものだったと確定しているわけではない。
犯人が残した3種類の物
21年以上が経過した現在も、北海道警の公式ページには犯人につながる可能性のある遺留品の写真が掲載されている。それが、ガストーチ、手袋、長靴の3種類だ。
北海道警はこれらを、「犯人の遺留品など」として公開している。
事件現場や逃走経路で、同じような品物を持つ人物を見た。似た物を使用していた人物を知っている。そんな記憶を呼び起こすため、20年以上経った現在も画像が残されている。
顔の見えない犯人
この事件には、防犯カメラに鮮明に映った犯人の顔や、警察が公開した似顔絵はない。
少なくとも現在の北海道警公式ページでは、年齢、性別、身長、服装、顔立ちといった具体的な犯人像は掲載されていない。
一方で、犯人が使用したとされる物は残っている。ショベルローダー、ガストーチ、手袋、長靴。そしてATM破壊という極めて特徴的な行動。事件の輪郭は強烈に残っているのに、その中心にいる人物の姿だけが見えてこない。
2007年、公的懸賞金制度の最初の対象事件に
この事件は、捜査史の面でも特徴がある。
2007年に警察庁が「捜査特別報奨金制度」を導入した際、最初に懸賞広告の対象となった5事件の一つに、石狩市新港における会社員強盗殺人事件が含まれていた。
当時設定された報奨金の上限は300万円だった。応募期間は当時の1年間であり、現在300万円の報奨金が設定されているという意味ではない。2026年現在の北海道警公式ページには、現在有効な懸賞金についての記載は確認できない。
それでも、制度開始時の対象に選ばれたことは、警察が広く情報提供を求めていた事件だったことを示している。
21年以上経っても北海道警の一覧に残る
事件から21年以上。しかし、北海道警の現在の「情報提供のお願い」ページには、この事件が今も、殺人事件に関する情報提供を求める事件として掲載されている。
個別ページも現在アクセスできる状態で残され、人物、車両、物など、犯人に関するどんな些細な情報でも寄せてほしいとしている。
これは単なる過去の事件記録ではない。2026年現在も、北海道警が情報を求め続けている未解決事件である。
重機を操った人物は誰だったのか
2005年1月13日の未明。何者かが砂利運搬会社からショベルローダーを奪った。約4キロ離れたスーパーでATMを壊した。警察が現れると、巨大な重機で逃走した。
雪をまき散らしながらパトカーの追跡をかわし、吹雪の中で姿を消した。そして、その重機を所有していた会社では、新田猛さんが殺害されていた。
犯人はなぜ、この会社を選んだのか。なぜ新田さんを殺害したのか。なぜショベルローダーを使うという大胆な方法でATMを狙ったのか。犯行はどこまで計画されていたのか。そして、重機を乗り捨てた後、どこへ消えたのか。
極めて特徴的な犯行だったにもかかわらず、21年以上が経過した現在も、その人物は特定されていない。
北海道警は現在も情報を求めている
北海道警が案内している情報提供先は、
- 札幌方面北警察署「石狩市新港における会社員強盗殺人事件捜査本部」:011-727-0110
北海道警の公式ページから、北海道警察本部捜査第一課へメールで情報提供することもできる。
2005年1月当時、石狩市新港や樽川周辺で不審な人物や車を見た。事件前後に重機について不自然な話をしていた人物を知っている。公開されたガストーチ、手袋、長靴に心当たりがある。事件について誰かから聞いた話がある。
21年前には意味がないと思われた情報でも、現在残っている捜査資料と結び付く可能性がある。
吹雪の未明、巨大なショベルローダーを乗り捨てて消えた人物。その正体は、今も明らかになっていない。
参考資料
北海道警察「石狩市新港における会社員強盗殺人事件に関する情報提供のお願い」
新田猛さんの氏名・年齢、発見日時・場所、ショベルローダーを使ったATM窃盗未遂、重機が勤務先から盗まれていたこと、遺留品、現在の情報提供先を確認。
北海道警察・事件詳細ページ
北海道警察「情報提供のお願い」
2026年現在も本件が殺人事件に関する情報提供対象として掲載されていることを確認。
北海道警察・情報提供事件一覧
Response「ATM破壊犯、事前にパトカーのタイヤをパンクさせた?」
ATM破壊時の状況、ショベルローダーと警察車両の追跡、吹雪、雪を使った追跡妨害、パトカーのタイヤ損傷など、当時の捜査状況を確認。
Response・2005年1月28日報道
捜査特別報奨金制度に関する2007年資料
警察庁が制度導入後に実施した最初の懸賞広告5事件の一つとして本件が選ばれ、上限300万円の報奨金が設定されていたことを確認。
https://www.money-c.com/column/tax_list/other_tax/611/


コメント