八王子スーパー強盗殺人事件|3人を射殺した犯人は、なぜ520万円を残して消えたのか

1990年代

1995年7月30日、東京都八王子市。

閉店直後のスーパー。その2階にある小さな事務所で、女性従業員3人が拳銃で殺害された。

被害者はパート従業員の稲垣則子さん(当時47歳)と、アルバイトの高校生だった矢吹恵さん(17歳)、前田寛美さん(16歳)。

犯人は現在まで特定されていない。

事件現場には金庫があり、そこには銃弾が撃ち込まれた痕跡まで残されていた。しかし、金庫に入っていた約520万円の売上金は持ち去られていなかった。

なぜ3人は殺されなければならなかったのか。犯人の目的は、本当に金だったのか。事件から31年が経過した2026年現在も、警視庁は犯人の行方を追い続けている。


事件概要

項目内容
事件名大和田町スーパー事務所内けん銃使用強盗殺人事件
通称八王子スーパー強盗殺人事件・ナンペイ事件
発生日1995年7月30日(日曜)
発生時刻午後9時15分ごろ
場所東京都八王子市大和田町4丁目26番1号
現場スーパー「ナンペイ大和田店」2階事務所
被害者女性従業員3人
凶器拳銃
被害金品金庫内の約520万円は残された
現在未解決・警視庁が捜査継続中

警視庁は正式名称を「大和田町スーパー事務所内けん銃使用強盗殺人事件」としている。

事件現場となったナンペイ大和田店は1階が店舗、2階が事務所という構造で、2階へ上がるには建物外側の階段を利用する必要があった。警視庁によれば、午後9時15分ごろ、2階事務所内で無抵抗な女性従業員3人が拳銃で殺害された。


1995年7月30日の夜

事件が起きた日は日曜日だった。

警視庁が現在公開している資料によれば、現場から北西約30メートルにある北の原公園では、地元自治会主催の盆踊り大会が午後6時30分ごろから開催されていた。太鼓と盆踊りの音が周辺に響く中、午後9時すぎに炭坑節が始まり、盆踊りが佳境を迎えた午後9時7分ごろに終了したとされる。つまり事件が起きたとされる午後9時15分ごろは、盆踊りが終わった直後だった。

警視庁は現在も、事件直前に店を利用した人物を探している。特に重要視されているのが、午後8時56分にレジで精算をした男女2人だ。男性は身長177センチ程度、女性は肩までのストレートヘアだったとされる。2人は買い物後、駐車場へ向かい白いセダン型の車に乗ったとの目撃情報がある。警察は、この2人が犯人や不審人物を目撃している可能性があるとして、31年後の現在も情報提供を求めている。


閉店後の2階事務所

閉店後、稲垣さん、矢吹さん、前田さんの3人は2階の事務所にいた。そして午後9時15分ごろ、何者かが事務所内へ侵入したとみられている。3人はいずれも拳銃で撃たれて死亡した。

当時の報道によると、高校生2人は粘着テープで口をふさがれ、2人の手を一緒に拘束された状態で発見された。事務所内の金庫にも銃撃された痕跡が残されていた。

事件は極めて短い時間の中で起きたと考えられている。しかし、その間に犯人が何を要求し、3人との間でどのようなやり取りがあったのかは分かっていない。


約520万円は、金庫に残されたままだった

この事件最大の謎の一つが金庫である。

事件当日、スーパーではまとまった売り上げがあり、金庫には約520万円が保管されていた。犯人はその金庫へ向けて発砲している。ところが、金庫は開けられておらず、中にあった売上金も持ち去られていなかった。

ここから大きな疑問が生まれる。金銭目的の強盗だったなら、なぜ現金を奪わず逃走したのか。もちろん、犯行途中で何らかのトラブルが起き、金を奪う余裕がなくなった可能性はある。逆に、金庫への発砲自体が別の目的を隠すための行動だった可能性も考えられる。

ただし、現在まで犯人の動機は特定されていない。警視庁も2026年現在、犯人数や動機を絞り切れていないとしている。


犯人は拳銃の扱いに慣れていたのか

この事件では、至近距離から被害者が撃たれている。そのため長年、「犯人は銃器の扱いに慣れた人物だったのではないか」という見方が語られてきた。

また捜査の結果、使用された拳銃がフィリピンで製造されたものと特定され、警視庁は現地にも捜査員を派遣している。しかし、そこから犯人へ直接つながる手掛かりは得られなかった。

「銃を使用した」という特徴は非常に大きい。一方で、それだけで犯人の職業や所属、犯罪組織との関係などを断定することはできない。未詳録では、こうした推測と確認された事実を分けて扱う。


現場に残された「靴跡」

犯人につながる可能性がある重要な物証の一つが、現場に残された靴跡である。

警視庁はその足跡を調査し、犯人が履いていた可能性があるスニーカーを再現・公開している。候補となる靴は当時販売されていた2社の製品。うち1種類は26センチサイズで、広島県のゴムメーカーが製造した、運動靴など約30種類に使われる型だったとされる。多摩地区ではパルコ吉祥寺店・調布店などで1万円から1万5000円ほどで販売されていたという。この型は全国49店舗で94足、うち黒色は60足が販売されたと警視庁は公表している。

さらに、この靴には微細な鉄粉、粘土、コケが付着していたことも確認されている。これらの付着物から、犯人が溶接作業などに従事していた人物である可能性も指摘されてきた。ただし、これはあくまで可能性の一つであり、職業を断定する根拠ではない。

警察は現在も、「1990年から1995年ごろに撮影した写真やアルバムを確認してほしい」と呼びかけている。事件当時、その靴を履いていた人物が写真に残っている可能性があるからだ。


粘着テープから見つかった指紋

事件から約20年後の2015年2月、大きな動きがあった。

高校生2人を拘束していた粘着テープ。その粘着面を特殊な薬品を使って剥がして調べたところ、指紋の一部が採取された。警視庁の1000万人以上に及ぶデータベースと照合したところ、約10年前に死亡していた日本人男性の指紋と、8点の特徴点が一致していることが確認された。

しかし、指紋の同一人物断定には通常12点の特徴点の一致が基準とされており、8点の一致ではこの基準に届かなかった。報道によれば、この男性は元運送業関係者で、事件当時は多摩地域に住み、白いセダンを所有していたことから参考人として聴取されていたという。一方で、アリバイが成立する可能性やDNA型鑑定の不一致から、実行犯ではないとの見方も伝えられている。

つまり、指紋の一部一致は犯人特定につながる決定的な証拠のようにも見えるが、それだけでこの男性が3人を射殺した実行犯だったと証明することはできない。この男性についてはその後も捜査が続けられたものの、最終的に犯人の特定には至っていない。物証らしきものは存在するのに、それが最後の一本につながらない。この点も、ナンペイ事件を難解なものにしている。


事件を目撃した人物がほとんどいない

この事件では、犯人の顔を直接見た人物が確認されていないことも大きな問題になっている。

現場は店舗ではなく、その2階にある事務所。しかも事務所へ向かうには外階段を利用する構造だった。犯人がいつ現場へ入り、どの方向から来て、事件後どこへ逃げたのか。その全貌はいまだ分かっていない。

一方で、事件直前に最後の客となった男女や、周辺にいた人物の記憶が事件解決につながる可能性は残されている。そのため警視庁は30年以上経過した現在も、当日の記憶を掘り起こすよう呼びかけている。


なぜ3人全員を殺害したのか

もう一つの大きな疑問がある。仮に目的が金庫の現金だったとしても、なぜ3人全員を殺害する必要があったのか。

顔を見られたため口封じをした、犯人を知る人物がいた、最初から特定の人物を狙っていた、犯行途中で予定外の事態が起きた。ネット上や事件を扱った書籍・番組では、長年さまざまな可能性が議論されてきた。しかし、これらはいずれも確定した事実ではない。警察も現在、金銭目的・怨恨などを含め動機を特定できていない。


不可解なポイント

1. 金庫を撃ったのに現金を奪っていない 金庫には約520万円。犯人は金庫へ発砲している。それなのに現金はそのままだった。単純な強盗として見ると、不自然さが残る。

2. 3人を殺害する必要があったのか 犯行は非常に重大で、犯人は3人全員を殺害している。強盗目的だったのか、特定の人物を狙った犯行だったのか。現在もその理由は分かっていない。

3. 物証があるのに犯人へ届かない 靴跡、粘着テープ、指紋、使用された拳銃。一般的な未解決事件と比べても、捜査につながりそうな材料はいくつも存在する。しかし、どれも最終的な犯人特定には至っていない。

4. 事件直前の人物たちは何かを見ていないのか 午後8時56分に買い物をした男女、盆踊りから帰る人々、周辺を走っていた車。事件現場の周囲には当然、人の移動があった。それでも決定的な目撃証言は得られていない。


ネットではどのような説が語られているのか

ナンペイ事件については長年、インターネット上でもさまざまな説が語られている。特に多いのは、「本当は強盗目的ではなかったのではないか」という疑問だ。

売上金が残されていたため、特定の被害者に対する怨恨説や、強盗を装った犯行だったのではないかという考察がある。また拳銃の入手経路から、暴力団や国外の犯罪組織との関連を推測する書き込みも存在する。

しかし現時点で、特定の個人や組織が事件を実行したと裏付ける公的な証拠は示されていない。「金が残されていた」「拳銃が使用された」という事実から、その先を断定することはできない。未詳録では根拠が確認できない人物への犯人認定は行わない。


未詳録の考察

この事件で最も不可解なのは、犯行の目的が見えないことではないだろうか。

犯人は拳銃を持っていた。3人を拘束あるいは制圧し、金庫へ発砲した。ここまでを見ると、強盗事件のように見える。しかし最後には、約520万円を残したまま逃げている。

もし金が目的だったのであれば、何が予定を狂わせたのか。逆に金銭目的ではなかったとすれば、なぜ金庫を撃ったのか。そして何より、なぜ高校生を含む3人全員を殺害したのか。どの仮説を選んでも、一つは説明できても別の疑問が残る。

この事件は「証拠が存在しない事件」ではない。拳銃、弾丸、靴跡、粘着テープ、指紋。手掛かりは残されている。それでも、それらを一人の犯人へ結びつける決定的な線だけが見つかっていない。それこそが、ナンペイ事件が30年以上経っても解決していない最大の難しさなのかもしれない。


事件から31年 ― 現在も捜査は続いている

事件は2026年7月30日で発生から31年を迎えた。警視庁は現在も事件を公開捜査しており、2026年には事件当時の現場周辺を再現した新たな3D動画も公開した。

また、警察庁の捜査特別報奨金制度の対象事件となっている。2026年7月30日から2027年7月29日まで、事件解決につながる情報には公的報奨金最大300万円、さらに民間の協力会から最大300万円が設定されており、合計最大600万円となっている。

事件から30年以上。当時を知る人々の記憶は薄れていく。それでも警察が最後の客、当時のスニーカー、事件周辺での記憶について現在も情報提供を求めているのは、まだ犯人へ届く手掛かりがどこかに残っている可能性があるからだ。

1995年7月30日の夜。ナンペイ大和田店の2階事務所で、一体何が起きたのか。金庫の中に残された約520万円。現場に残された靴跡。粘着テープの指紋。そして、姿を見られることなく消えた犯人。事件は、今も解決していない。

情報提供先 八王子警察署:042-621-0110


参考資料

※本記事では警視庁・警察庁などの公的資料および報道を中心に情報を整理しています。「考察」「ネット上の説」については確認された事実と区別して記載し、根拠が確認できない特定人物への犯人認定は行っていません。

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