下関・竹崎町男性殺人事件 ― 県警が「この犯人を捜しています」と書いた男、18年

2000年代

未解決事件の情報提供ページを読み比べていると、警察が人物をどう呼ぶかに神経を使っていることが分かる。

金沢市久安の事件では、石川県警が似顔絵を公開しながら、その男性を「事件について何らかの事情を知っている可能性がある人物」として扱っていた。目撃された人物と犯人を、公式には切り分けている。広島でも静岡でも、公開される人物像にはたいてい同じ慎重さがある。

山口県警が下関市竹崎町の事件について書いているのは、そうした表現ではない。

この犯人像の男は、上記日時場所で発生した刃物を使用した殺人事件の発生直後に現場から立ち去った不審者です。

そして、こう続く。

警察では、この犯人を捜しています。

2008年3月3日、下関市竹崎町の路上で、一人の男性が刃物で殺害された。犯行直後に現場を離れる男が目撃され、その人物像が公開された。県警はその男を「犯人」と呼んでいる。それから18年、男が誰なのかは分かっていない。

事件概要

項目内容
発生日2008年(平成20年)3月3日(月)
発生時刻午後7時すぎごろ(旧県警資料による)
発生場所山口県下関市竹崎町 路上
被害者男性(氏名・年齢は非公表)
凶器刃物
犯人像犯行直後に現場から立ち去った男
現在未解決
情報受付下関警察署刑事第一課(083-231-0110)/山口県警察本部捜査第一課(083-933-0110)

山口県警はこの事件を「下関市竹崎町における男性被害殺人事件」として、重要事件のページに掲載している。同じページには「山口市赤妻町における女性被害殺人事件」(平成21年1月12日)と「山口市佐山における強盗殺人事件」(平成25年3月24日)が並ぶ。

「不審者」と「犯人」のあいだ

県警の文面は二段構えになっている。人物を紹介する文では「現場から立ち去った不審者」とし、呼びかけの文では「この犯人を捜しています」と書く。

紹介の部分だけを読めば、目撃されたのは現場から立ち去った不審な人物、ということになる。だが呼びかけの一文で、県警はその人物を犯人と位置づけている。

他県の事件ページと比べたとき、この書き方は踏み込んでいる。犯人と断定できる材料がなければ、警察は「事情を知っていると思われる人物」といった表現を選ぶのが通例だからだ。逆にいえば山口県警は、この男が犯人であることについて、公開文書でそう書ける程度の確度を持っていることになる。

ただし、県警がその確度の根拠を説明しているわけではない。目撃証言の内容も、防犯カメラの有無も、物証の有無も公開されていない。公開されているのは、犯人像の画像と、この短い文面だけである。

人物の特徴は、いまの県警ページには載っていない

現在の県警ページで犯人像は画像として掲載されており、年齢や背格好といった特徴は本文に書かれていない。

一方、2008年当時に県警が公開していた内容を記録した資料には、この人物について次のように残っている。

  • 年齢:30~40歳くらい
  • 身長:170~175センチくらい
  • 黒っぽい野球帽
  • 黒っぽいジャンパー
  • 黒っぽいズボン

発生時刻を「午後7時すぎ」としているのも、この旧資料である。現在の県警ページには発生日しか記されていない。

つまりこの事件について公にされている情報は、18年のあいだに増えたのではなく、むしろ本文から減っている。広島の事件でテレビ局の記事ページがリンク切れになり、長野の事件で店名「栃尾」が現行ページから消えたのと同じ現象が、ここでも起きている。手がかりの総量は変わらないのに、たどり着ける情報だけが目減りしていく。

なお、当時30~40歳とされた人物が実在し、その推定が正しければ、2026年現在は48~58歳ほどになっている計算になる。もっとも、目撃証言に基づく推定である以上、実年齢が違う可能性は残る。髪型も体格も顔つきも18年で変わる。黒い野球帽の男を現在の誰かと外見だけで重ねることはできない。

竹崎町という場所

竹崎町はJR下関駅のある一帯で、下関市の中心部にあたる。下関駅交番も竹崎町4丁目に置かれている。

この町名で「下関 殺人事件」と検索すると、まず出てくるのは別の事件である。1999年9月29日、JR下関駅東口で5人が死亡、10人が重軽傷を負った下関通り魔殺人事件。加害者は現行犯逮捕され、2008年に死刑が確定し、2012年に執行された。

2008年3月の竹崎町の事件は、その有名な事件と同じ町で起きていながら、まったく別の、そして未解決の事件である。知名度の差は大きい。1999年の事件が事典項目から書籍まで大量の記録を残しているのに対し、竹崎町の男性殺人事件は、県警のページと、それを記録した個人サイトの類いを除けば、たどれる情報がほとんどない。

現在の県警が公表している現場表記は「下関市竹崎町 路上」までで、どの通りだったのかは示されていない。

報奨金の記録について

この事件が警察庁の捜査特別報奨金制度の対象になっていた、とする記述を目にすることがある。2008年7月30日に指定され、上限300万円だったというものだ。

本記事の作成時点で、この指定を公的な記録から確認することはできなかった。警察庁が現在公告している対象事件の一覧に本事件はなく、制度の対象事件をまとめた資料にも該当する記載を見つけられていない。

同制度の応募期間は原則1年で、延長されなければ対象から外れる。そのため、仮に過去に指定されていたとしても、現在は報奨金の対象ではない。いずれにせよ「300万円が出る事件」として読まれないよう、ここでは未確認情報として扱う。

公表されていないこと

山口県警が公開しているのは、発生日と場所、刃物が使われたこと、犯行直後に現場を離れた男の人物像、そして情報提供先までである。

被害男性の氏名、年齢、職業は公表されていない。刺された部位も、凶器の種類も、刃物が回収されたのかも記されていない。犯人と被害者に面識があったのか、動機が何だったのか、犯人がどの方向へ逃げ、車を使ったのかも示されていない。

路上で起きたという一点から通り魔的な犯行と決めることも、逆に怨恨と決めることもできない。財布や現金が奪われたという記載もないため、強盗目的と考える材料もない。

そして、犯人像まで公開されている事件がなぜ18年も未解決なのか、その理由自体も県警は説明していない。

2022年で止まったページ、開いたままの窓口

山口県警の重要事件ページの更新日は2022年3月18日。本記事作成時点から4年以上さかのぼる。それでもページは公開され続け、下関警察署刑事第一課と県警本部捜査第一課の電話番号、そして情報提供用のメールアドレス(keijikikaku@police.pref.yamaguchi.lg.jp)が案内されている。

県警は、氏名や住所を書いて情報を寄せた場合でも、警察からの連絡を希望しないならその旨を記載できるとしている。

2008年3月3日の午後7時すぎ。下関駅にほど近い竹崎町の路上で、一人の男性が刃物で殺された。その直後、黒い野球帽の男が現場を離れていった。山口県警はその男を「犯人」と呼び、いまも捜している。

情報提供先

下関警察署 刑事第一課 電話:083-231-0110

山口県警察本部 捜査第一課 電話:083-933-0110

メール:keijikikaku@police.pref.yamaguchi.lg.jp

関連記事

参考資料

  1. 山口県警察「重要事件」: https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/site/police/10554.html 「下関市竹崎町における男性被害殺人事件」として、発生日「平成20年3月3日(月曜日)」、発生場所「下関市竹崎町 路上」、「この犯人像の男は、上記日時場所で発生した刃物を使用した殺人事件の発生直後に現場から立ち去った不審者です。」「警察では、この犯人を捜しています。」の文言、情報提供先(下関警察署刑事第一課083-231-0110、山口県警察本部捜査第一課083-933-0110、メールkeijikikaku@police.pref.yamaguchi.lg.jp)を確認。同ページには山口市赤妻町の女性被害殺人事件、山口市佐山の強盗殺人事件も掲載。更新日2022年3月18日。
  2. 2008年当時の山口県警事件ページを記録した資料: https://w.atwiki.jp/onthecorner/pages/364.html 発生時刻「平成20年3月3日午後7時過ぎ」、人物の特徴(年齢30~40歳位、身長170~175cm位、黒っぽい野球帽・ジャンパー・ズボン)を確認。現在の県警ページ本文には掲載されていないため、過去資料として区別して扱う。
  3. Wikipedia「下関通り魔殺人事件」: https://ja.wikipedia.org/wiki/下関通り魔殺人事件 1999年9月29日にJR下関駅東口で発生し、5人が死亡した別事件。加害者は現行犯逮捕され死刑が確定・執行されている。竹崎町という同じ地域で起きた事件だが、本件とは無関係であることの確認に使用。
  4. 警察庁「捜査特別報奨金制度の実施」: https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/reward/index.html 現在の公告一覧に本事件が掲載されていないことを確認。

※本記事は山口県警察の公開資料を最優先とし、発生時刻と人物の特徴は、現在の県警ページ本文にない情報のため、当時の公開内容を記録した資料に基づくものとして区別している。捜査特別報奨金制度の対象になっていたとする記述については、本記事作成時点で公的な記録から確認できなかったため、未確認情報として扱った。被害男性の氏名・年齢は県警が公表しておらず、本記事でも記載していない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました