宮崎県警が24年にわたって公開し続けている一枚の写真がある。紺色の、いわゆるママチャリ。特徴は後輪の泥よけで、そこに白い大きなカタカナが3~4文字ほど書かれている。文字の大きさは一つあたり4センチ四方ほど。
県警の事件ページで、この自転車には**「手配自転車」**という語が当てられている。警察の用語で「手配」は、探している対象に使う言葉である。
2002年6月26日の早朝、宮崎県日南市油津4丁目の油津港の海上で、神代輝之さん(当時55歳)が射殺された状態で発見された。日本では銃器による殺人そのものが多くない。それでも事件は24年以上、解決していない。
事件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発見日時 | 2002年6月26日 早朝 |
| 発見場所 | 宮崎県日南市油津4丁目・油津港海上 |
| 被害者 | 神代輝之さん(当時55歳) |
| 当時の居住地 | 宮崎県東諸県郡綾町 |
| 過去の居住地 | 福岡県、鹿児島県 |
| 事件種別 | 殺人(射殺) |
| 公開されている関連物 | 茶色の革製バッグ、紺色の手配自転車 |
| 現在 | 未解決 |
| 情報受付 | 日南警察署(0987-22-0110) |
県警のページには「いまだ検挙に至っておらず、現在も殺人事件として犯人検挙に向け強力に捜査をしています」と記されている。ページの最終更新日は2025年7月18日。
県警が事件名に入れた「元石材店従業員」
宮崎県警がこの事件に付けている正式な名称は、「日南市油津港において発見された元石材店従業員被害の殺人事件」である。
未解決事件の呼び名は、たいてい発生地と被害者の属性で構成される。本シリーズで扱ってきた事件でも、「独居女性殺人事件」「少女刺殺事件」「タクシー運転手殺人事件」といった具合に、居住形態や年齢、職業が使われる。
この事件で県警が選んだのは、過去の勤め先である。現職ではなく「元」石材店従業員という表現がそのまま事件名になっている。あわせてページには、神代さんが当時は東諸県郡綾町に住んでいたこと、そして「以前は福岡県、鹿児島県に居住していたことがあります」という居住歴も記されている。
被害者の過去の職業と、他県にまたがる居住歴。この二つをわざわざ公開しているのは、神代さんという人物を知る人の範囲が宮崎県内にとどまらない可能性を、県警が想定しているからだろう。県警が求めている情報の筆頭が「被害者を知っている方、見掛けられた方」であることとも符合する。
ただし、福岡や鹿児島での生活が事件に結びついていると県警が述べているわけではない。
「所持品等」に並ぶ二つのもの、その扱いの違い
県警の事件ページには「所持品等」という欄があり、そこに二つのものが掲載されている。
一つはバッグ。茶色の革製で、縦約17センチ、横約22センチ、幅約7センチ。写真も掲載されている。
もう一つが自転車で、こちらは「種類:手配自転車~軽快走タイプ」と書かれている。色は紺色。後部泥よけ部に白色の大きなカタカナ文字が3~4文字程度あり、一文字の大きさは4×4センチほど。
注目したいのは、二つの書き方が同じではないことだ。バッグには「バッグ」としか書かれていないのに対し、自転車にだけ「手配」という語が付いている。
警察が物に対して「手配」という語を使うのは、その所在を探し、見つけた場合に連絡を求めるときである。ページにはそれ以上の説明がないため、自転車が現在どこにあるのかは明記されていない。だが、同じ欄に並ぶ二つの物のうち、自転車にだけこの語が選ばれていることは、両者の位置づけが違うことを示している。
県警がこの自転車について、いつ、どこで神代さんと結びついたのか、事件当日に使われたのかといった説明はしていない。したがって「神代さんが自転車で油津港へ向かった」と読むことはできない。分かるのは、県警がこの自転車を24年にわたって探し続けているという事実である。
白いカタカナ3~4文字
自転車の泥よけに書かれていた文字について、県警が公開しているのは「白色の大きなカタカナ文字が3~4文字程度」「一文字の大きさ4×4cm位」という情報までで、何という文字だったのかは公開されていない。
自転車そのものは大量生産品である。しかし泥よけに4センチ角の白い文字が3~4文字も書かれていれば、話は変わる。持ち主の名字なのか、店や勤め先の名なのか、管理用の記号なのか。意味は分からないが、見覚えのある人には強く残る類いの特徴だ。
文字の内容を伏せたまま「カタカナ3~4文字」とだけ示すのは、情報提供を受けた際に本物かどうかを判別する余地を残す扱いともいえる。24年たってなお写真と寸法を掲載し続けているのは、この自転車がいまも捜査上の意味を失っていないからだろう。
どこで撃たれたのかは示されていない
神代さんが見つかったのは油津港の「海上」である。県警が公開しているのはその一点で、港のどこだったのか、どのような状態だったのか、誰が最初に見つけたのかは記されていない。
そして、油津港が射殺の現場そのものだったのかも明らかにされていない。港で撃たれて海に落ちたのか、別の場所で撃たれて運ばれたのか、船の上だったのか。遺体の発見場所と殺害場所が一致するという前提は、公開資料からは導けない。
当時の神代さんの住まいは東諸県郡綾町で、日南市油津とは同じ市町村ではなく、ふらりと歩いて行き来できる距離でもない。その神代さんがなぜ油津港にいたのか——この一点が、事件に残された最も大きな空白である。
1年で3万2000人、21年後に20人
事件後の捜査は大規模だった。2023年の日南テレビの報道によれば、発生後の1年間だけで延べ約3万2000人の捜査員が投入されている。地方都市の一件の殺人事件としては、相当な規模である。
それでも容疑者の特定には至らなかった。
事件から21年となった2023年6月26日には、日南警察署の警察官約20人が現場近くのスーパーや油津港でチラシを配り、情報提供を呼びかけた。同署の副署長は「この事件を決して風化させてはいけない。被害者や遺族のために無念を晴らして、必ず犯人を検挙する強い思いで今後も捜査を続けていきたい」と述べている。
3万2000人から20人へ。数字の落差は、長期未解決事件がたどる道筋をそのまま示している。
公表されていないこと
県警が公開しているのは、発見の日時と場所、射殺であること、被害者の氏名・年齢・居住地と居住歴、バッグと自転車の特徴、そして求めている情報の種類までである。
使用された銃の種類、発射された弾数、弾丸や銃が回収されたのかどうかは記載がない。犯人の性別、年齢、体格、服装、人数、動機も公表されておらず、似顔絵も防犯カメラ画像も出ていない。神代さんと犯人の関係、正確な射殺時刻、事件後の犯人の足取りも同様である。
日本では銃器が厳しく規制されているため、射殺という事実だけで犯人の背景について特定の想像が働きやすい。だが県警は犯人像について何一つ公表しておらず、公開資料から犯行の性質を決めつけることはできない。
県警は「事件発生のころ油津港周辺で不審車両・人物を見掛けられた方」からの情報も求めているが、これは犯人が車を使ったことが確定しているという意味ではなく、車種や色、台数が示されているわけでもない。
2026年も掲載は続いている
宮崎県警の事件専用ページは2026年9月現在も公開されており、日南警察署が情報提供先として案内されている。2023年の情報提供活動の際には、専用のフリーダイヤル0120-110-467も設けられていた。
2002年6月26日の早朝、油津港の海上で神代輝之さんは見つかった。なぜ港にいたのか、誰と会っていたのか、どこで撃たれたのかは、いまも公にされていない。
分かっているのは、宮崎県警が24年間、後部泥よけに白いカタカナが並んだ紺色の自転車を探し続けているということである。
情報提供先
宮崎県 日南警察署
電話:0987-22-0110
2023年の情報提供活動では、専用フリーダイヤル 0120-110-467 も案内されていた。宮崎県警は情報提供者の秘密は守るとしている。
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参考資料
- 宮崎県警察「日南市油津港において発見された元石材店従業員被害の殺人事件について」: https://www.pref.miyazaki.lg.jp/police/invest/nitinan.html 事件名に「元石材店従業員」が含まれること、発生日時(平成14年6月26日早朝)、発見場所(日南市油津4丁目・油津港海上)、被害者・神代輝之さん(当時55歳)が東諸県郡綾町に居住し「以前は福岡県、鹿児島県に居住していたことがあります」と記載されていること、「所持品等」欄にバッグ(茶色・革製・縦約17cm×横約22cm×幅約7cm)と「種類:手配自転車~軽快走タイプ」(紺色、後部泥よけ部に白色の大きなカタカナ文字3~4文字程度、一文字4×4cm位)が掲載されていること、求める情報の項目、「いまだ検挙に至っておらず、現在も殺人事件として犯人検挙に向け強力に捜査をしています」の文言、情報提供先(日南警察署0987-22-0110)を確認。最終更新日2025年7月18日。
- 日南テレビ「油津港で男性遺体発見から21年 警察が情報提供呼びかけ」(2023年6月26日): https://www.nichinan.tv/2023/06/26/2002/ 被害者が元石材店従業員であること、事件後1年間に延べ約3万2000人の捜査員が投入されたこと、約20人の警察官が現場近くのスーパーと港で情報提供活動を行ったこと、副署長のコメント、フリーダイヤル0120-110-467を確認。
- MRT宮崎放送「油津港で射殺された男性の遺体が発見された未解決事件 事件発覚から21年」(2023年6月26日): https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mrt/563762 ※本記事作成時点でアクセス制限により本文を確認できていない。
※本記事は宮崎県警察の公開資料を最優先とし、捜査員数や情報提供活動の規模、副署長のコメントは報道による情報として区別している。「手配自転車」という表記は県警ページの原文にあるもので、自転車の現在の所在や事件との具体的な関係について県警は説明していないため、本記事でも推測によって補っていない。


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