長崎市風頭町の身元不明男性 ― 亡くなった翌日に見つかったのに、4年たっても名前がない

2020年代

身元の分からない遺体の多くは、見つかったときにはすでに長い時間がたっている。白骨化していたり、服が傷んでいたり、顔立ちが分からなくなっていたりする。名前が分からないのは、手がかりが時間に削られてしまったからだ。

2022年7月16日に長崎市風頭町で見つかった男性は、そうではなかった。長崎県警が推定する死亡日は、発見の前日の7月15日。亡くなってから1日ほどで見つかっている。紺のストライプのワイシャツも、黒いスラックスも、革靴も、身につけたままだった。黒いトートバッグ、銀縁の眼鏡、金属の腕時計、青い格子柄の折りたたみ傘も残っていた。

警察はそれらをすべて写真で公開し、生前の顔を推定した似顔絵も作った。それでも、4年がたったいまも、男性が誰なのかは分かっていない。

概要

項目内容
作成番号長崎署令和4年1号
発見日2022年(令和4年)7月16日(土)
推定死亡日2022年7月15日(金)
発見場所長崎県長崎市風頭町
性別・推定年齢男性・30~50歳くらい
身長・体格168センチ・中肉
頭髪黒の短髪
血液型不明
着衣紺色ストライプの長袖ワイシャツ(襟は白)、黒の半袖Tシャツ、黒のスラックス、黒の革製短靴
所持品金属製の腕時計、黒のトートバッグ、紺と青の格子柄の折りたたみ傘、銀縁の眼鏡
現在身元不明
情報提供先長崎県警察本部刑事部鑑識課(095-820-0110 内線4642)または各警察署

長崎県警の資料には、死因や亡くなった経緯は記載されておらず、犯罪に巻き込まれたことを示す記載もない。本記事でもこの男性を事件の被害者としてではなく、身元が分からないまま亡くなった人として扱う。

亡くなった翌日に見つかったということ

発見が死亡の翌日だったことには、いくつかの意味がある。

一つは、男性の姿がほぼ生前のまま残っていたということだ。県警が公開している似顔絵は、正面に近い角度と斜めからの2種類ある。白骨化した遺体から顔を推定する復顔とは違い、実際の顔立ちに近い姿を描けた可能性が高い。

もう一つは、身元の手がかりが最も多く残る状態で見つかったということである。服も持ち物も、雨や時間にさらされる前の状態で回収されている。

そして、それにもかかわらず4年間、男性に行き着く人が現れていない。7月15日の金曜日から、男性が帰ってこない、連絡がつかないと気づいた誰かがいれば、届け出や問い合わせと照合される機会があったはずだ。そうした照合が実を結んでいないことが、この事案のいちばん大きな空白になっている。

風頭町という場所

風頭町は、長崎市の中心部の東側、標高約150メートルの風頭山の一帯にある町である。すぐ近くの風頭公園には高さ3メートルを超える坂本龍馬の銅像が立ち、長崎港を見下ろす展望台がある。ハタ揚げの名所として市民に親しまれ、桜やあじさいの季節には花見客も訪れる。龍馬ゆかりの亀山社中の跡へと続く坂道もあり、観光客が歩く道筋でもある。

地元の人も、よそから来た人も訪れる場所だ。発見された場所だけから、男性が長崎の人だったのか、旅行や仕事で長崎に来ていた人だったのかを判断することはできない。県警も、男性が風頭町にいた理由については何も公表していない。

ワイシャツ、トートバッグ、青い格子柄の傘

男性の服装と持ち物は、県警の資料に写真付きで記録されている。

上は紺色の細いストライプが入った長袖のワイシャツで、襟だけが白い。その下に黒の半袖Tシャツを着ていた。下は黒のスラックス、足もとは黒い革の短靴。持っていたのは、外側にもポケットのある横長の黒いトートバッグと、細い金属フレームの銀縁の眼鏡、四角に近い文字盤の金属バンドの腕時計、そして紺と青の格子柄の折りたたみ傘である。

ワイシャツにスラックスと革靴、トートバッグという組み合わせは、勤め帰りの会社員のようにも見える。ただしそれは服装からの印象にすぎず、県警は男性の職業について何も示していない。

一つひとつは、どこにでもある品だ。だが、白い襟の紺ストライプのシャツ、青い格子柄の傘、銀縁の眼鏡、金属の腕時計を同時に身につけた、身長168センチほどの30代から50代の男性、と条件を重ねていけば、身近な誰かを思い出す人がいるかもしれない。

捜査と謎

県警の対応

この男性の身元確認を担当しているのは、長崎県警本部の刑事部鑑識課である。県警の公開資料のファイルは2022年8月の日付で保存されており、発見からおよそ1か月のうちに情報が公開されたことがうかがえる。

長崎県警の身元不明死者のページには、2002年に佐世保市で見つかった人の情報から順に、身元の分からないまま残る人たちが並んでいる。その中で、2022年に見つかったこの男性は最も新しい掲載の一人である。県警はページに「県内で発見されて身元の確認ができないご遺体が、速やかにご遺族の元へお帰りいただけるよう、皆様からの情報を求めています」と記している。

残された謎

最大の謎は、なぜ名前に行き着かないのか、である。

亡くなってすぐに見つかり、服も持ち物も揃い、似顔絵まで公開されている。条件だけを見れば、身元が判明してもおかしくない事案だ。それでも判明していないということは、男性を探している人がいない、あるいは探している人がいてもこの情報に行き当たっていない、そのどちらかである可能性が高い。

トートバッグの中身についても、県警は公表していない。財布や身分証、携帯電話が入っていたのかどうかは分からない。持っていたとすれば身元はすぐに分かったはずで、4年たっても分からないということは、少なくとも名前に直結する物は見つかっていないとみられる。

もう一つ、7月の長崎で折りたたみ傘を持っていたことにも目が向く。日頃から鞄に傘を入れておく習慣のある人だったのかもしれない。こうした小さな生活の癖が、本人を知る人の記憶と結びつくことがある。

ネット上の反応

この男性について、ネット上で語られている考察はほとんど見当たらない。長崎県警の資料以外に、この事案を取り上げた報道も確認できなかった。

身元不明の遺体をめぐっては、しばしば死因を推測する声が上がる。だが県警は死因を公表しておらず、事件性についても何も示していない。本記事では、男性がどのように亡くなったのかを推測で補うことはしない。それは、いまもどこかで男性の帰りを待っているかもしれない家族にとって、根拠のない物語を押しつけることになるからだ。

この事案が映すもの、そして教訓

年間8万人を超える行方不明者届

警察庁によれば、2024年に全国の警察が受理した行方不明者届は8万2563人に上る。そのうち、所在が分かったときにはすでに亡くなっていた人は3930人だった。

行方不明者届の多くは受理した当日に所在が確認されている。一方で、届け出をした家族の側と、身元の分からない遺体の側とが、いつまでも結びつかないまま残る場合がある。風頭町の男性は、その結びつかなかった側にいる。

届け出がなければ、照合の相手がいない。男性がもし誰かの家族であり、その誰かがまだ届けを出していないのであれば、一度警察に相談するだけで状況が変わる可能性がある。

身元を調べる仕組み

2013年4月に施行された「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(死因・身元調査法)は、警察署長が身元を明らかにするため、医師や歯科医師に血液や歯、骨などの一部を採取させることなどを定めている。DNA型や歯の治療痕は、服や持ち物がなくても本人にたどり着ける手がかりになる。

同じ法律は、身元が分からない遺体について、警察が遅滞なく市町村長に引き渡すことも定めている。引き取り手のない遺体は、明治時代にできた行旅病人及行旅死亡人取扱法に基づいて自治体が火葬し、特徴や所持品を官報に公告する仕組みになっている。遺体が火葬されたあとも、警察は身元不明死者として情報を公開し、服や持ち物の写真で家族を待ち続ける。

どこで亡くなったかを知る手段

警察庁は、全国47都道府県の警察が公開している身元不明死者の情報ページへのリンク集を設けている。家族や知人の行方が分からない人は、住んでいた地域だけでなく、旅先や仕事先になりえた地域の情報も確かめることができる。

風頭町の男性が長崎の人だったとは限らない。遠く離れた場所で、いまも男性の帰りを待っている人がいるかもしれない。その人が長崎県警のページにたどり着けば、4年間の空白は一日で埋まる可能性がある。

情報提供先

長崎県警察本部 刑事部鑑識課 電話:095-820-0110(内線4642)

または各警察署(長崎警察署:095-822-0110)

服装や持ち物、似顔絵に心当たりがある場合は、古い記憶であっても連絡してほしいと長崎県警は呼びかけている。

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参考資料

  1. 長崎県警察「身元不明死者[情報提供のお願い]」: https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/kurashi/joho-teikyo/mimotofumei/ 長崎市風頭町の男性(推定30~50歳、身長168cm、推定死亡日令和4年7月15日)が掲載されていること、情報提供先(刑事部鑑識課095-820-0110内線4642または各警察署)、ページの説明文を確認。
  2. 長崎県警察「長崎署令和4年1号」身元不明死者資料(PDF): https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/wp-content/uploads/2022/08/1ff575b8554efe385bc66efcc3410779-1.pdf 作成番号、発見日(令和4年7月16日)、発見場所、推定死亡日(令和4年7月15日)、性別、推定年齢、身長、体格、頭髪、血液型、着衣、所持品、生前のイメージ似顔絵の掲載を確認。
  3. 長崎市「風頭公園」: https://www.city.nagasaki.lg.jp/page/2740.html 風頭山(標高151.9メートル)の公園であること、坂本龍馬の銅像、展望台、桜とあじさい、ハタ揚げの名所であることを確認。
  4. 警察庁「令和6年における行方不明者届受理等の状況」: https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/R6_yukuefumeishakouhoushiryou2.pdf 2024年の行方不明者届受理数(8万2563人)、死亡確認(3930人)、受理当日の所在確認が最も多いことを確認。
  5. 「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」: https://hourei.net/law/424AC1000000034 第8条(身元を明らかにするための血液・歯牙・骨等の採取)、第10条(身元不明の死体の市町村長への引渡し)を確認。
  6. 警察庁「身元不明死者情報ページのリンク集」: https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/mimotofumeilink.html 全国47都道府県警察の身元不明死者情報ページへのリンクが掲載されていることを確認。

※本記事は長崎県警察の公開資料に基づいている。県警は死因や事件性について公表しておらず、本記事でもこれらを推測していない。この男性について報じた報道は、本記事作成時点で確認できなかった。

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