三鷹市大沢五丁目アパート殺人放火事件|爪のDNA、犯人は28年不明

1990年代

被害者の爪に、犯人のものとみられるDNAが残っていた。事件からおよそ18年後の再鑑定で分かったこの事実が報じられたのは、2017年のことだ。DNAという言葉からは解決が近いような印象を受けるが、それからさらに9年がたった今も、警視庁は「犯人はまだ明らかになっていません」とし続けている。

事件が発覚したのは1998年9月28日の午後10時ごろ。東京都三鷹市大沢五丁目のアパートの1階で、この部屋に住む31歳の女性が殺害され、室内に火を付けられていた。警視庁は殺人・放火事件として三鷹警察署に特別捜査本部を置き、現在も公開捜査を続けている。

2026年9月28日で、事件の発覚から28年になる。本記事では、警視庁の公開情報と過去の報道を区別しながら、この事件で分かっていることと分かっていないことを整理する。

事件概要

項目内容
事件名三鷹市大沢五丁目アパート内女性殺人放火事件
発覚日時1998年9月28日(月)午後10時ごろ
場所東京都三鷹市大沢五丁目のアパート1階室内
被害者女性(当時31歳)
被害状況殺害されたうえ、室内に放火された
捜査三鷹警察署に特別捜査本部、殺人・放火事件として公開捜査中
主な手がかり2016年の再鑑定で、爪から犯人とみられるDNAの一部を検出(2017年報道)
現在未解決

夕方の犯行、夜の発覚

警視庁が示している「午後10時ごろ」は、事件が発覚した時刻であって、犯行の時刻ではない。2017年のテレビ朝日の報道では、女性は9月28日の夕方に首を絞められて殺害され、室内に火を付けられたとされている。夕方から夜にかけてのどこかで殺害と放火が行われ、午後10時ごろに発覚したという流れになるが、その間の詳しい時間経過は公表されていない。

同じ報道によれば、亡くなったのは塾講師の中山みづ江さん(当時31歳)だった。一方、警視庁の現在の公開ページには氏名や職業、死因は載っておらず、「女性(当時31歳)」とだけ記されている。

18年後に見つかったDNA

事件が大きく動いたと報じられたのは2017年だった。テレビ朝日は、前年の2016年に行われた再鑑定で、中山さんの爪から犯人のものとみられるDNAの一部が検出されたと伝えている。事件当時の技術では十分に調べられなかった資料を、鑑定技術の進歩によって改めて解析した結果とみられる。

爪に第三者のDNAが残っていたということは、中山さんが襲われた際に犯人と接触し、抵抗した可能性を示している。それでも解決に至っていないのは、DNAが「照らし合わせる相手」がいて初めて力を発揮する証拠だからだ。警察が保管しているDNA型の記録に同じ型の人物がいなければ、DNAが残っていても個人の特定にはつながらない。さらに、報道の表現はあくまで「犯人のものとみられるDNAの一部」であり、検出された量や鑑定の精度によって、使い方にも限界がある。

ネット上には「警察のデータベースと照合したが一致しなかった」とする記述も見られるが、これを裏付ける警視庁の発表や信頼できる報道は確認できなかった。

公表されている情報と、報道で伝えられた情報

この事件は、警視庁が公開している情報がごく少ない。報道で伝えられた内容と区別すると、次のようになる。

項目警視庁の公開情報報道で伝えられた内容
被害者女性(当時31歳)中山みづ江さん、塾講師(2017年テレビ朝日)/予備校講師(2026年『選択』)
犯行時刻記載なし(発覚は午後10時ごろ)9月28日の夕方(2017年テレビ朝日)
死因記載なし首を絞められた(2017年テレビ朝日)
DNA記載なし2016年の再鑑定で爪から検出(2017年テレビ朝日)
求めている情報不審な人・車両、物音や争う声―

本記事では、この表の右側の内容を報道として扱い、警視庁が確認した事実とは区別している。

警視庁の「放火」一覧から見えること

警視庁が公開捜査を続けている事件のうち、「放火」に分類されているのは、三鷹の事件を含めて6件ある。柴又三丁目女子大生殺人放火事件、六木四丁目アパート放火殺人事件、鳥越二丁目ビル内外国人男性殺人・放火事件、野方六丁目店舗併用住宅における出火焼死事件、板橋区弥生町所在の住宅内殺人及び放火事件、そして三鷹の事件だ。

この中で、三鷹の事件と特に似た形をしているのが、1996年の柴又の事件である。どちらも1990年代に、20〜30代の女性が自宅で殺害され、その後に火を付けられた。そしてどちらも、犯人のものとみられるDNAが残されていながら、30年近く犯人が特定されていない。二つの事件を結び付ける情報は何もなく、同一犯を疑う根拠もないが、「DNAがあっても照合する相手がいない」という壁に、同じ時代の二つの事件が突き当たっていることは確かだ。

柴又の事件では不審な男の服装や身長まで公開されているのに対し、三鷹の事件では犯人像がまったく示されていない。同じ警視庁の同じ種類の事件でも、公開される情報の量には大きな差がある。

捜査と謎・数々の説

警察の動向

警視庁は三鷹警察署に特別捜査本部を置き、現在も「殺人」と「放火」の両方の公開捜査一覧にこの事件を掲載している。求めているのは、発覚場所付近で不審な人や車両を見た、物音や争う声を聞いたといった情報で、どんな些細なことでも構わないとしている。

2026年7月には、月刊誌『選択』が、警視庁が長年マークしてきた重要参考人がいたこと、その人物がすでに亡くなっていたことを報じた。記事の公開部分では2024年以降の捜査にも触れられている。ただ、警視庁の公開ページは現在も「犯人はまだ明らかになっていません」としており、この報道の内容を警察が確認したものではない。報道に登場する人物を犯人と断定することはできない。

残された謎

最大の謎は、犯人がなぜ殺害のあとに火を付けたのかである。放火の目的も、火災によってどれほどの物証が失われたのかも、警視庁は明らかにしていない。夕方の犯行から午後10時ごろの発覚までに何があったのかも分かっていない。

説1:証拠を消すための放火

殺人と放火が重なる事件で、最も一般的に考えられるのがこの見方だ。部屋に残った指紋や遺留品を焼くことで、自分につながる痕跡を消そうとしたというものである。ただ、実際には爪のDNAが残っており、仮に証拠隠滅が目的だったとしても、少なくともその一部は果たされなかったことになる。

説2:被害者を知る人物による犯行

放火によって発見を遅らせ、自分が疑われる前に時間を稼ごうとしたという見方もある。被害者の生活を知る人物であれば、その部屋に誰がいつ来るかを把握していた可能性がある。『選択』が報じた重要参考人の存在は、この見方と重なる部分もあるが、警視庁は犯人と被害者の面識について何も公表していない。

説3:侵入目的の犯行が発展した

盗みなどの目的で部屋に入った人物が、被害者と鉢合わせて殺害に至り、混乱の中で火を付けたという見方である。警察が「争う声」についての情報を求めていることから、犯行時に何らかのもみ合いがあった可能性はあるが、物色の有無などは公表されていない。

ネット上の情報について

この事件は、世田谷一家殺害事件や八王子のスーパー強盗殺人事件ほど知られておらず、ネット上の情報も断片的だ。DNAの照合結果について断定的に書いたまとめサイトもあるが、出典をたどれるものは見つからなかった。

未詳録の考察

この事件の不可解さは、残された手がかりの少なさではなく、手がかりが残っているのに届かないことにある。犯人の体から付いたとみられるDNAが、被害者の爪に18年間も保存されていた。それが見つかってから、さらに9年がたっている。

DNAは万能の証拠のように語られがちだが、三鷹の事件は、DNAが「持ち主を探し当てる道具」ではなく「見つけた相手を確かめる道具」であることを示している。照らし合わせる相手が現れない限り、どれほど確かなDNAでも名前は教えてくれない。だからこそ、事件の周辺で何かを見聞きした人の記憶が、28年たった今も捜査にとって意味を持ち続けている。

『選択』の報道が事実であれば、捜査はすでにある人物に行き着いていたのかもしれない。しかし、それを確かめられるのは警察だけであり、公開情報の空白を推測で埋めることは、被害者にとっても事件にとっても、正しい記録にはならない。

事件がもたらした影響・結末

時効撤廃で続く捜査

事件が起きた1998年当時、殺人罪の公訴時効は15年だった。当時の法律のままであれば、この事件は2013年に時効を迎えていたことになる。2010年の刑事訴訟法改正で殺人罪などの時効が撤廃され、改正時点で時効を迎えていなかった事件にも適用されたことで、三鷹の事件は今も捜査を続けられている。2016年の再鑑定も、この改正がなければ行われていなかった可能性がある。

古い証拠が新しい意味を持つ時代

三鷹の事件は、事件当時に保管された資料が、技術の進歩によって何十年も後に新たな手がかりになることを示した例でもある。長期未解決事件で証拠を保管し続けることの意味は、こうした事例によって裏付けられてきた。一方で、DNAが見つかっても照合する相手がいなければ解決に至らないという現実も、この事件ははっきりと示している。

事件は現在も未解決

2026年9月現在、事件は解決していない。警視庁は今も、当時の小さな記憶でも構わないとして情報提供を呼びかけている。

情報提供先

警視庁 三鷹警察署(特別捜査本部)
電話:042-249-0110(署代表)

この事件をもっと知るために

三鷹の事件では、被害者の爪から検出されたDNAが重要な手がかりとされています。DNA鑑定や火災の鑑定が実際の捜査でどのように使われているのかを知りたい方には、科警研・科捜研のOBらが所属する民間鑑定機関が監修した入門書がおすすめです。図解が中心で、事件報道に出てくる用語の意味もつかみやすい一冊です。

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参考資料

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